新型コロナウイルス感染拡大の影響により、世の中の働き方が大きく変化しました。その中でも象徴的なのが「リモートワーク」です。
国土交通省の調査によると、新型コロナウイルス対策として新たにリモートワークを実施した人は15.6%います。また公益財団法人日本生産本部の調査によると、新型コロナウイルス収束後もリモートワークを継続して実施したいと考えている人は60%以上になります。
リモートワークによってオンライン会議が当たり前となり、満員電車での通勤もなくなりました。大きなメリットもある反面、子どもの教育環境などデメリットに感じる点もあるのが現実です。
そんなリモートワークについて、作家でコメンテーターの乙武洋匡さんは「嬉しさの反面、悔しさもある」と語ります。乙武さんが感じた”悔しさ”とは、一体何だったのか。リモートワークの可能性について、創業手帳株式会社創業者の大久保が聞きました。
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(2021/02/16更新)
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作家。1976年、東京都出身。早稲田大学在学中に出版した『五体不満足』が600万部を超すベストセラーに。卒業後はスポーツライターとして活躍。その後、小学校教諭、東京都教育委員など歴任。現在は『AbemaPrime』でMCを務める。最新作に「家族とは何か」「ふつうとは何か」を問いかける小説『ヒゲとナプキン』(小学館)がある。
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計150万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。
乙武氏が語るリモートワークの可能性
乙武:2017年に1年間、世界中を巡っているときにリモートワークの可能性に触れました。世界中を巡ると、いろいろな経験をしたり、新たな発見があったんです。それを記事にして、さまざまな媒体に掲載していただきました。
この海外を飛び回りながら原稿を書いて対価をいただけた経験から「別に日本にいる必要は無いんだな」と思いました。
おそらく、中堅・若手くらいの方々はリモートワークをしたいと思っているんですよね。SNS上でもそういう声があふれていますから。
でも決定権を持っている上の年代の方々がITに慣れていない、ということが大きいのかもしれないですね。そこに難しさは感じます。
Google本社で感じた働き方
乙武:それこそシリコンバレーにあるGoogle本社を訪問したときに感じたことがあります。Googleでは何時から何時までが就業時間という決まりがなくて「成果を求められる働き方」が根付いていました。会社に来る、来ないというよりも成果が大事という考え方ですね。
乙武:ここで大切な視点があります。すべての仕事がリモートに置き換えられるべき、という論調で話を進めてしまうと、どうしてもリモートが難しい職種の方々もいらっしゃるわけです。そうした方々が時代から取り残されてしまう「罪悪感」のようなものを持たされてしまうことは、避けなければなりません。
「可能な方はリモートにしていきましょう」という言い方にしていくことが大切だと思います。
大久保さんがおっしゃるように、日本は会社にさえいれば勤務時間と認められ、お給料が増えていく仕組みの会社が多いです。そうなると、効率悪くダラダラ仕事してしまうという誰のためにもならない仕組みになってしまいます。
評価する側のスキルも問われてきますが「成果」に比重を置く評価システムにしていくことが大事だと思います。
マイノリティは以前からリモートワークを提言してきた
地方に暮らす少数派の方も東京に暮らす多数派の方と同じように働けるというのは、リモートワークの良さだと思っているのですが、乙武さんはどう思われますか?
乙武:2020年の4月に書いたnoteの記事が、かなり多くの方に読んでもらえました。どんなことを書いたのかというと、マイノリティ(少数派)についての話です。
コロナによって多くの方が非常に困難な状況に陷り、戸惑いを感じ、日常が大きく変化させられました。
コロナが流行する以前、多くの方は毎朝電車に乗って会社や学校に行き、夜になったら友達と食事に行ったり、好きなバンドのライブに行っていたと思います。
こういうことが、すべてできなくなってしまったことに、社会の混乱や戸惑いが生まれました。でも、こうした社会の不便さって、実はマイノリティがコロナ前から経験していたことなんです。
私のような車いすユーザーや視覚障がいの方などは、毎朝地獄のような満員電車に乗って通勤することはできませんでした。何らかの事情で不登校になっているお子さんや、病気で長期入院しているお子さんも毎朝学校に通って授業を受けることはできませんでした。
私たちマイノリティはずっと前からリモートワークをやってくれ、オンライン教育をやってくれ、オンライン配信ライブをやってくれと言ってきたのに、まったく変わらなかったんです。
それがコロナによってマジョリティー(多数派)が困難に直面すると、こんなにも一気に変わるのか……。便利になったという嬉しさ反面、私たちマイノリティがいくら声を上げても変わらなかった悔しさも、正直な気持ちとしてありましたね。
リモートワークは私のように移動に困難を抱える障がい者であったり、家で子育てをする方々、親の介護をする必要がある方々にも、働く可能性が生まれると思います。
実際、うちの会社でもコロナ以前からリモートワークをしている社員がいます。優秀な能力を持つ方が、快適に能力を発揮できる形がベストです。
「リモートワークやるぞ!」という掛け声になると、抵抗感を抱く方もいると思うんです。なので一旦、「働く=オフィスに行くこと」という概念を取っ払いませんか? という言いをすれば、会社やそれぞれの職種に適した働き方が自然と導かれていくのかなと思います。
リモートワークが普及するうえで必要なこと
乙武:リモートワークが普及するうえで必要だと思うことが二つあります。一つは先ほども触れたように評価基準を働いた時間ではなく、成果に変えていくこと。どこで働いても成果で評価をすれば、仮にサボっている人がいたとしても成果が出なかったら評価を下げればいいだけですよね。
もう一つは、住まいに対する価値観を変えること。これは働く側の変化が求められてきます。リモートワークが定着して会社に行くことが少なくなるなら、郊外の広いところに住んで働きやすい部屋にしたくなると思うんです。
乙武:私も1回目の緊急事態宣言が発令されたとき、海沿いに住みたいなと思いました。あのときって家の周りの散歩ぐらいだけが許されていた時期だったじゃないですか。そうすると都心部に住んでいるメリットはまったくないわけです。
私は歌舞伎やオペラが好きで月に1,2回行くんですけど、いまの家から電車1本で行ける距離なんですね。でもオンライン配信になれば日本中、世界中どこからでも見られるじゃないですか。そう考えると「なんでここに住んでいるんだろう? 家賃高いだけじゃん」と思ったんですよね。
リモート教育の可能性について
乙武:「いま日本で一番優秀な学校はどこか?」と聞かれたら、みなさんはどこだと答えるでしょうか? 偏差値の高い開成高校や灘高校と答える方もいらっしゃるでしょう。ただ、私はN高(N高等学校)だと思うんです。学校の優秀さというのは偏差値が高い子どもが集まっていることではなくて、どれだけ優良な学習コンテンツが提供されて、指導できる教員がいるかだと思います。そう考えると、N高はとても優秀です。
N高にはオンライン通学コースがありますから、良い教育を子どもに受けさせたいから都会に住まなくてはいけないということもなくなります。
ただ、懸念されているのは初等教育だと思うんです。小学校というのはフルリモートにはならないでしょうし、しないほうがいいと考えています。
なぜなら、小学校は勉強をするだけの場所ではありません。例えばネグレクトを受けている子どもにとっては給食が食べられることは重要ですし、物理的な虐待を受けている子どもにとっては、学校がセーフティネットの役割を果たしています。そうなると小学校をフルリモートにするリスクは大きいです。
中学についてはN中という学校が出てきました。まだ正規の中学校としては認められていないので、住んでいるところなどの中学校に在籍したままN中で学ぶ形になりますが、教育自体はオンラインでも受けられます。
乙武:オルタナティブな考え方が大事になってくると思います。フルリモートもあれば、ハーフリモートやフル対面な働き方や教育があって、各自がそれぞれフィットするものを選べることが豊かな社会だと思っています。まさにそれは、私が以前から提唱している「多様性」です。
優秀な人材を獲得するためにもリモートワークが必要
乙武:少子高齢社会の日本では、若い働き手は減っていきます。なので、いかに優秀な若者を獲得していくかが鍵になっていくでしょう。多くの若者が働き方や会社がSDGsにどれほど貢献しているかを注視しています。優秀な若者に選んでもらえる環境を作るためにも、リモートワークは重要だと思います。
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(取材協力:乙武洋匡)
(編集:創業手帳編集部)